夏休みは北アルプスへ Day4 – 白馬岳
雨は夜になって強さを増し、風は激しく吹き荒れている。
穏やかな天気が続いていたので忘れていたが、台風が近づいているのだった。そろそろ日本へ再接近するころだ。もしかすると上陸したかもしれない。
風に煽られてペグが抜け、テントが捲れ上がる。飛ばされないように内側から体で押さえる。張り綱はすでに意味をなしていない。外に出た瞬間にテントが飛ばされそうなので、ペグを打ち直すこともできない。ただ耐えるばかりである。
通風孔やファスナーの隙間から染み込んできた雨で、テント内が濡れている。シュラフもすっかり湿ってしまった。濡れた衣服で濡れたシュラフにくるまって、飛ばされそうなテントを内側から押さえて寝る。なんとも不快な夜だ。
朝になり、雨風もいくらか弱まったので、恐る恐る外に出た。
さて、最終日の行程だ。
本来なら白馬岳経由で栂池まで歩き、リフトで下山してバスで八方までもどる予定だった。しかし、この強風でリフトが運休したらどうしよう。そう考えると、ここから大雪渓を下って猿倉から八方へもどったほうが良さそうだ。確実に下山できるし、リフト代も節約できる。
強風でテントを張りっぱなしにはできないので、まずは撤収し、荷物をまとめてからとりあえず白馬岳へ向かった。
さすが百名山、白馬岳はここまでの山々とは次元の違う賑わいだった。外国からの登山者グループもいる。
そして、多くの登山者が白馬岳から先の稜線へと歩いていく。雰囲気や装備から見て、朝日岳方面への縦走ではなさそうだ。蓮華温泉へ向かう人もいるだろうが、栂池へ下る人も多いはずだ。
なんだ、みんな行くんじゃないか。リフトが止まってたらどうしようなんてビビってたのが恥ずかしくなった。止まってたら止まってたでなんとかなるだろう。下山は今日だが、明日も休みだ。時間の余裕もたっぷりある。
そうだ、行こう。この先の稜線へ。
白馬岳をピストンするのに、ザックをデポせず背負ってきた自分を褒めたくなった。なんとなく持って行ったほうがいいような気がしたし、こういうことがあるかもしれないとも思ったが、やはり虫の知らせ的ななにかだったのではないだろうか。
白馬岳から先へ進む多くの登山者にまぎれて歩く。気分が軽いと体も軽い。四日目にして、ようやく本調子になってきたようだ。
三国境の分岐では雪倉岳から朝日岳へ連なる稜線を目に収め、次はここだなと気持ちを新たにした。
曇り空だが心は軽やかだ。人が多くても気にならない。
快調に小蓮華山への登りをいく。
最後の最後に本調子になってきた。いつもこうなんだよな。エンジンがかかるのが遅すぎる。
小蓮華山に登ったら、あとは白馬大池まで下り、乗鞍岳を超えて栂池までの激下りを降りるだけだ。
長かったようで短かったようでやっぱり長かったような四日間が終わろうとしている。今回もいろいろあったが、山の女神はずっと微笑んでくれていた。
山よさよなら、ご機嫌よろしゅう
また来るときにも笑っておくれ
2022年8月