そうだ、ヒリヒリしに行こう!! 〜 木賊編
第三岩峰から先は、山の雰囲気がガラッと変わります。
ここからはヤブとルートファインディングの道。ワンミスで大ケガする緊張感との戦いのここまでの道とは打って変わって、じりじりと精神力を削り取られる消耗戦が始まります。
まずはシャクナゲのヤブ漕ぎです。
前半の踏み跡は比較的明瞭です。そのしっかりした踏み跡をたどっていくと、だんだんヤブが濃くなってきて、そのまま進むと…明らかにまちがった尾根に入りこんでしまったりします…。
正しい方向へ進むには、明瞭な踏み跡の途中でそれて、ヤブを漕がなきゃいけないようです。そんな罠が何カ所もあります。進んで確認して引き返して当たりをつけてヤブを漕ぐ。
行ったり来たりで不必要に体力を消耗します。
木賊山に甲武信ヶ岳は、まだまだずっと先。
いったい、いつになったら着くんだろう。
みんなが歩きやすそうなところを歩くせいか、尾根を外してトラバース気味に踏み跡がついています。尾根はどんどん高度を上げていくのに、踏み跡は平坦で、これいつ高度を稼ぐんだ?と、だんだん不安になってきます。
さらには、尾根は右へカーブしていくのに、踏み跡は左へ続く支尾根に沿っていて、これはマズいんじゃないの?と思い始めたころ、踏み跡が唐突に消滅します。
なんてこったい…。
尾根を外したところまで引き返すには、すでにかなりの距離を歩いています。それに、尾根に乗っかっても踏み跡は薄いはずです。尾根上には越えるのがたいへんそうな大きな岩もありました。
これは、ここで斜面を直登して尾根に復帰するしかありません。
しかたなく、道なき急斜面をずるずる滑りながら上がります。ヤブも漕いで上がります。すると、ときおり人が付けた足跡が残ってたりして、あぁ君もここで直登したのか…と、見知らぬ誰かに親近感を覚えたりもします。
踏み跡のない急登の直登は、体力を激しく消耗します。方向を間違えないよう絶えず確認しつつ進むのは、精神力をすり減らしていきます。
こうでなくっちゃ。たいへんだけど、でもそれがいい。
木道や階段できっちり整備された稜線の道も悪くないんだけど、いつもそういう公園っぽいのばっかりでもね。
木賊山に近づくにつれて踏み跡はさらに錯綜してきます。尾根も広くなり、もはやどこを歩いていいのかわかりません。踏み跡もない急斜面をただひたすら直登していきます。
どこまで続くんだよとうんざりする急登を登り続けていくと、不意に傾斜が緩やかになり、広々とした平坦地になりました。
これなら歩きやすいやと、さらに進んでいくと…………!!!
ベンチ!!出ました!!木賊山の山頂で一般道と合流です。
思わず両手を高く突き上げて、出た~~!!!と叫んでました。
バリエーションルートから一般道に出た時の、やったぜ感は強烈です。アドレナリンがどばどば出ます。それは、一般道で山頂に到着したときよりもずっと強烈。途中のルートが厳しければなおさらです。
テンション上がってるので甲武信ヶ岳も行っちゃいます。
道無き道を歩いた後の一般道は快適で、駆け上るようにして甲武信ヶ岳の山頂へ登りました。
そして、そこで足が終わりました。
下り道はつらかった。足に力が入りません。足の筋持久力が売り切れたようです。着地の衝撃を受け止められず、姿勢のバランスを保ち踏ん張ることもできません。しかたなく、一歩づつゆっくりと足を上げ足を置いて、よろよろと下っていきます。
さっきまでどばどば溢れてたアドレナリンも、すっかり枯れてしまったようです。
この状態で、岩がちな戸渡尾根を下っていくのはキツイです。ゆっくりでしか下れないので、後から降りて来た人たちに次々と抜かされます。
よろよろ下ってもなかなか進まず、先はまだまだ長く、もうほんと歩くのがイヤになりました。もうイヤだ~!と声に出し、登山道に寝転んで休憩します。が、このまま寝ていても帰れません。たとえどんなに遅かろうとも、自分で歩いていくしかありません。気を取り直して渋々イヤイヤよろよろと、また下り始めます。
そうして、CT4時間のところを、5時間以上かかってようやく駐車場に帰り着きました。
ヒリヒリしに行ったのに、ヨロヨロしてフラフラになり、ヘロヘロで下山しました。