-18℃の稜線 – 金峰山
長い長い樹林帯の上り坂を登り切ると、そこは真っ白な稜線。
これだよこれこれ、これが見たかったんだ。
綺麗だけれど、とっても寒い。
ザックの奥に突っ込んだコーラがシャーベットになっている。
あたたかいコーヒー飲みたいけれど、お湯が沸くまでじっとしてるのは辛すぎる。しかたなく氷のようなパンとシャーベット状のコーラを胃に入れた。体の表面からだけでなく、お腹の底からも冷えてくる。
こちら側から登ると、ずっと五丈岩を眺めて歩けるのがいいね。ひとつピークを超えるごとに、一歩五丈岩に近づいていく。
モノトーンの世界はなんだか現実感がなく、夢の中を歩いているかのよう。
こんなところにいるなんて不思議だな。自分でわざわざ来たんだけどね。
岩に薄く氷が張り付いていて歩きにくい。アイゼンの歯がガチガチ当たる。チェーンスパイクで軽快に飛ばしていく一団に抜かされたけど、あれって歩きやすいのかな。
無雪季ならなんでもない場所でも、ツルッと滑ると間違いなくかなり下まで落ちていくので、全く気が抜けない。
最後の登り坂を登り、五丈岩の目の前に。
また来たよ。白い季節は初めて。
本格的に山を再開するきっかけになった思い出の地。
あの日、終わりの見えない下界のごたごたを、しばしの間でも忘れたくて、なにも告げずに逃げるようにして登った山。
人の住む場所を超え、神々の地に足を踏み入れたと感じた稜線。
人間界の悩みや心配なんて、ちっちゃいなって気づいた瞬間。
あの日以来、山の魅力に取り憑かれて離れられない。
しばらく山頂にいたら本格的に体が冷えてきた。そろそろ下山しよう。
一歩一歩かみしめながら白い稜線をもどる。
砂払ノ頭までたどり着き樹林帯に入ると、風も寒さもぐっと和らぐ。ここから先は下るだけ。緊張感から解放され、つかれが出たのか全くスピードが上がらない。
ようやく富士見小屋まで降りてきて、茶色い地面を見たらホッとした。
人の住む世界も、あたたかくていいな。