ウルップソウに会いに行こう

やっと会えた。ずっと会いたかった花に。最盛期にはやや遅く、終わりかけではあったけど、なんとか待っていてくれた。

分厚くて艶のある硬質の葉が砂礫の地面に低く生え、その中心からまっすぐ伸びた花茎に青紫色の細長い花が無数に咲く。その特徴的な姿とともにウルップソウを魅力的にしているのは、この花が氷河期の生き残りだという事実だ。氷河期の生き残り! 悠久の浪漫ではないか。

国内では、ウルップソウは八ヶ岳の他に、北アルプスの白馬岳と北海道の礼文島のみで咲く。ウルップソウという名は、千島列島がまだ日本領だったころ、ウルップ島で発見されたことに由来するという。この他はカムチャッカ半島やアリューシャン列島に生息していて、極東の寒冷地のみという世界的に見ると非常に狭い分布域なのだ。

太古の時代は北方に生息していたウルップソウが、氷河期の進行とともに分布域を南に広げ、やがては当時は地続きだった日本にまで到達した。その後、氷河期の後退とともに再び生息域は北へと移っていったが、一部は寒冷な気候を求めて山の上へ上へと登っていった。そんな上を目指したウルップソウの末裔が、今でも一部の寒冷な高山に生き続けているのだ。

でもこれは、ウルップソウだけの物語だろうか。他の高山植物はどうなのだろう。

氷河期の日本の山はどんなだっただかと想像する。それはおそらく現代の北極圏の、例えばアイスランドのような風景だったに違いない。

寒冷で乾燥しているため樹林は発達しない。現代では藪でしかない低山も、灌木がまばらに生える砂礫の山だった。そこには無数の、いまでは高山にしか咲かない花々が咲き誇っていたはずだ。それが、氷河期が終わり気候が温暖になるにつれて、多くは北上し、一部は氷の溶けた高山へと登った。コマクサもハクサンコザクラもイワツメクサも、そうした気候変動を生き延びていま、高い山の上にだけ、それぞれ隔離された島のような生息域に生きているのではないか。

緑の濃い現代の山も美しいが、目の前のあらゆる山と丘に高山植物が咲き誇る、そんな光景を想像すると、ぜひそれを見てみたい気持ちになる。実際にカムチャッカの山々では、低山にも一面の高山植物が花開くという。

今回は八ヶ岳のウルップソウに出会ったが、他の地域のウルップソウにも会ってみたい。個体数が非常に多いという白馬岳には、ぜひとも花咲く季節に訪れたい。礼文島にもいつか行けたらいい。そして、花咲き乱れるというカムチャッカ半島の山々にも。

八ヶ岳

Posted by azuwasa