観光地化された奥地 – 五箇山

富山の山間部に残る茅葺きの里、五箇山。茅葺き民家の密集する集落としては、相倉と菅沼の二つがある。

飛騨と富山を結ぶ国道156号線沿いにあり、何度か通過はしているが、訪れるのは今回が初めてだ。重要伝統的建造物群保存地域にも指定されており、山村好きな自分としてはぜひ行っておきたいところではあったが、いまひとつ気乗りがしなくて、いまだ未訪問になっていた。

気乗りがしなかった理由は、こういう超有名な茅葺き集落が、現場はどういった状態になっているかを、だいたい知ってしまったからである。

そしてここ五箇山も、予想を裏切ることはなかった。

集落入り口には大きな有料駐車場があった。観光バスが何台も入れる大きさだ。

集落内の道は、車の通行に支障がない程度に舗装されている。しかし集落内に車を乗り入れられるのは、住民と宿泊者に限られる。集落景観を守るなら、車は全て駐車場に停めて集落内の道は昔ながらに…とは思うものの、ここに限らず日本全国どこでも、田舎の人々は自分の家の前に車を乗り付けるのに拘りがあるようだ。便利にするのが悪いわけではないが、茅葺き民家の前に無造作に止められた何台もの自動車は、微妙な景観ではある。

茅葺き屋根自体も立派に補修され、綺麗な状態を維持されていた。きちんと整備することが悪いわけではないが、これだと作られた集落、たとえば根場の「いやしの里」なんかと区別がつかない。

これらのことを置いといても興ざめするのは、集落内のほぼ全ての民家が観光から収入を得るのに特化している点である。

民宿、食事処、お土産屋、集落内には看板が溢れ、文字が躍っている。かつては集落唯一の収入源であったであろう第一次産業から得られるよりも、はるかに手っ取り早く、より大きなお金を手にすることができるのだから、観光から収入を得ようとするのは致し方ないだろう。でも、この文字情報の煩さは、静かな周囲の景観に比すると、非常に猥雑に感じられる。みなが、人より多くの現金を手にしようと競っているかのようだ。

相倉からさらに奥地の菅沼は、より規模の小さな集落であった。

規模が小さい分、より観光に特化しているように見える。集落中心の広場を囲んで並んでいる茅葺き民家は、まるでテーマパークのお土産コーナーのようであった。

菅沼のすぐ脇を東海北陸自動車道が通っている。インターからも近く、観光バスも寄りやすいようである。

山腹を走る国道沿いの駐車場から谷底の集落へ降りるために、なんとエレベーターが設えられていた。きっと良かれと思って作られているのだろう。田舎の人は基本的に歩くのは嫌いだから。これが田舎の「おもてなし」である。しかし、エレベーターで降りていく茅葺き集落とは…。その発想に驚嘆するとともに、なんともシュールな光景であった。

菅沼集落の奥には、茅葺き民家が規則正しくきっちりと詰められて並んでいる区画があった。一軒一軒が不自然に近く、不自然なほど規則的になるんでいる。おそらく移築された茅葺き民家なのだろう。

どうやらここを宿泊施設として開発しているようであった。

飛騨や白川郷、それに富山や金沢からもさほど遠くはなく、高速道路もできてアクセスもさらに良くなり、観光バスも乗り付けるし、より多くの観光客が訪れるようになったのだろう。しかし、いつまでこれが続くのかなと思わざるにはいられない。一度は見に来たとしても、二度三度と訪れる人は少ないのではないか。そもそも、こういった観光開発され尽くした集落に、興味をもってやってくる若者はどれくらいいるのだろうか。

この日も、歩いているのは年配者とアジア系のツアー客ばかりであった。