新雪の稜線ひとり旅 – 菜畑山 / 今倉山

えっ、またかよ…。

山頂から先の稜線に踏み跡はなかった。先週に続いてまたまた今週もラッセル縦走のようだ。

麓の道志村から、ここ赤鞍ヶ岳へはピストンした人がいるようだった。棚ノ入から赤鞍ヶ岳の山頂を通って厳道峠方面へも、だれかひとり物好きが縦走したようだ。しかし菜畑山方面は真っさらの白い稜線。こっちのほうがメインの縦走路だから、だれかひとりくらい歩いてるだろと考えて来たのだが、どうやらそのだれかひとりに自分がなるようだ。

ヒザから太ももくらいの積雪が続く。深いところもあって進む力に抵抗がかかる。急な登りは雪が崩れてずるずる滑り落ちる。なかなかに難儀な縦走だ。

予定時間よりもだいぶ遅れて菜畑山に到着した。

菜畑山、この山の名前は、知らなければ読めないだろう。一見なんの変哲もない山名に見えるが、実際は特殊な読み方をする。なぜこんな読み方をするのか不思議な山だ。この山以外では聞いたことがない。なにか由来や意味があるに違いない。

菜畑山から先の稜線にもトレースはなかった。山頂に年配の三人組がいたので期待したが、麓から登って麓へ降りただけのようだ。今倉山まで、どうやらまだあと3時間のラッセルが続くことになる。いや、コースタイムで3時間だが、それよりかかるだろう。3時間半か4時間か。

進む先の稜線が見えている。中央の最も高いのが今倉山だ。なかなか立派な山だ。アップダウンも多く、簡単には着かない。水喰ノ頭までの急な登りを登り切ると、鞍部へ向かって一気に下降する。そしてその先には今倉山への長い登りが待っている。やれやれ。

下山口には自転車をデポしてある。帰りの舗装路10キロはそれで一気に戻るのだ。下り基調になるように標高の高い方に自転車をデポし、標高の低い方からスタートした。つまりそれは登山中は、後半になるにしたがって標高が上がっていくということでもある。

なんでこんなキツい思いをして山に登ってるのか?
なぜだれも歩いていない雪の稜線を、ひとりでラッセルしてるのか?

なぜ山に登るのか?

このつまらない質問に、古今東西さまざまな登山家がつまらない回答を寄せている。

なぜ山に登るのか?

そんなの楽しいからに決まってるだろ!

だれも歩いていない雪の急登をひたすらラッセルして登る。次第に呼吸が荒くなっていく。つらそう?キツそう?寒そう?そんなのやりたくない?そう思うかもしれないけれど、これがすっげえ気持ちいいんだよ。だから登ってるんだ。めっちゃ楽しいんだよ。わかってもらわなくてけっこう。

ようやく見覚えのある山頂に着いた。今倉山の山頂だ。縦走の最後に本日の最高地点である。妙な達成感だ。

なんとも登りごたえのある山だった。道坂峠からだとサラッと登れてしまうけど、それだとこの山の良さは体感できないだろう。

ここまで軽く来れたら、さらに先へ、西峰から赤岩くらいまでは行こうかと考えていたが、とてもそんな時間ではない。まもなく日が落ちる。ここまででじゅうぶんだ。じゅうぶん満足した。

あとは道坂峠まで下るだけ。ここからは何人かの踏み跡もある。たいした距離でもない。

自転車をデポした下山口まで、西日を浴びたオレンジ色の登山道を下った。