冬の権現岳へ

キツい。キツ過ぎる。楽な登りでないのはわかっていたが、こんなにキツかっただろうか?

しばらくぬるい山しか登ってないし、登山の間隔も開きがちだ。本格的な雪山からはずいぶん遠ざかっている。残雪期登山に向けて、体力維持と雪山慣らし運転のために権現岳に来たのだが、前三ツ頭への急登で、すでにへばってしまった。

凍った登山道には昨夜の新雪が降り積もっている。アイゼンが効かなくてズルズル滑り、体力を消耗する。体は重く、ペースは上がらない。時間だけが過ぎていく。

天女山ゲートから前三ツ頭まで4時間かかって到着した。前回登ったのは4年前だが、その時は2時間25分だった。この4年間でそこまで衰えたかと愕然とする。

なかなか動き出せず、20分休憩してから気を取り直して出発した。

前三ツ頭から鞍部への下りまではまだよかったが、三ツ頭への登りで完全に足が止まってしまった。もはや登る力もないが、それでもほんのわずかづつ標高を上げていく。後から来た登山者に次々と抜かされてしまう。

もう無理、もうヤダ、もうやめたい。そうは思っても、やめる決断はなかなかできないものだ。このままの超スローペースでも、なんとか山頂まで行って、暗くなる頃には下山できるかもしれない。以前ならそうしただろう。でも、その気力がない。空は灰色の雲に覆われ始めて、どうせ登っても天気は悪いと思うと、なんとか行こうという気持ちにもなりにくい。

とにかく三ツ頭までは登ろう。そこで権現岳が雲に隠れていたら、引き返すことにしよう。そう決めて、つらい登りを登る。それにしても、三ツ頭への登りって、こんなにキツかっただろうか?

つらさに耐えかねて、もうやめたい気持ちが強くなってきた。樹林帯から見上げる空はまだ青い。しかし権現岳から赤岳方面には灰色の雲が立ち込めている。三ツ頭に着いた時、権現岳が見えなくなってることを願いつつ登る。

三ツ頭到着は出発から5時間25分後だった。前回の3時間10分から、2時間15分も遅れてしまった。

見えないことを期待した権現岳は、期待通り灰色の雲に隠れていた。もう登らなくていいんだ。ホッとして腰を下ろし、大休止した。

天女山ゲートから冬の権現岳を目指すのはこれで5回目だが、5回目にして初めての撤退だ。過去4回では、三ツ頭までで下山する登山者を見て、なんでここまで来てあと少し登らないんだろうと疑問だったが、今日はその気持ちがよくわかる。

そうこうしているうちに、厚い雲が強風に流されて、権現岳が姿を表してしまった。えっ、どうしよう。これは行くしかないか。でももうすっかり疲れて、下山するつもりでいた。どうするか…。

立ち上がって権現岳に向かい、出直して参りますとつぶやいて一礼した。

山は再び灰色の雲に覆われていった。

2023年1月

八ヶ岳

Posted by azuwasa