高岩の30mチムニー
車を停めて歩いて山へ向かう。これから登る高岩が目の前に聳えている。
厳つい…。あれ登るのか…。登れるのか?
山頂直下は30mのチムニーだ。突破できるだろうかと不安になる。
南側の登山口から入山した。登り始めは穏やかで、のんびり歩いても30分もせずにチムニー基部に到着した。
見上げる。ここを越えなければ山頂に到達できない。
ほぼ垂直、オーパーハングしてる箇所もある。クサリがあるが、手がかり足がかりも豊富だ。上の方はかなり狭そうに見える。途中にテラスがあるのはありがたい。
準備をする。まずはヘルメット、これは墜落に備えてというよりも、登ってる途中で頭をぶつけた時のためだ。それからスリングを簡易ハーネスにして装着する。大きめのスリングを用意したので、胸の前が余って長い。そこにカラビナを取り付けて、これでクサリにセルフビレイを取ろうというのだ。最小限の装備で、果たしてこれでほんとに確保できるのかわからないが、無いよりマシだろう。なにより安心感が違う。そこが重要だ。登山は気からだ。
取り付いた、いきなりオーパーハング気味で、クサリを握って腕力任せで登る。体重があるので苦労する。汗と冷汗を吹き出させながらテラスまで登った。
下を見る。落ちたらたいへんだな。そして上を見る。あと10mといったところか。チムニーは思ったよりも狭い。
ここまで来たら行くしかない。意を決して登り始めた。
狭いチムニーは背中でも支点を取れるので登りやすい。しかし、少し登るとザックが挟まって身動き取れなくなってしまった。アタックザックで来たのだが、それでも通ることができなかった。
一旦テラスまで降り、ザックをデポして再び取りかかった。
空身でも最上部は体も入らない狭さだ。これは物理的に通れない。とすれば、チムニーの外へ出て岩壁を登るしかない。手がかり足がかりがあるとはいえ、この高さでフリーで登るのは恐ろしい。
クサリにカラビナをかけてセルフビレイを取る。これで落ちても大丈夫だと自分に言い聞かせる。それから横移動し、チムニーの外へ出た。
少し登ってはカラビナを掛け直し、また少し登ってはカラビナを掛け直す。ここは焦るところじゃない。30cm刻みで慎重に上がっていく。
慎重に…。慎重に…。
チムニーの上部に出たときは、体の力が抜けそうだった。
踏み跡を辿ってピークまで登ったが、そこは山頂ではなかった。どうやら、目の前に見えているもうひとつのピークが山頂のようだ。
やれやれと思いつつ。荒れた踏み跡を下り、荒れた踏み跡を登る。アドレナリンが出ているのだろう、これくらいなら怖くもない。
ようやく登頂した高岩山頂で、ふーっと大きく息を吐き出した。さすが西上州、一般ルートでもこの厳しさだ。
周囲の山々がぐるっと見渡せる。妙義山も見えている。滑落事故も多い妙義山だが、登頂という点だけでは、高岩のほうがずっと厳しい。
麓から見上げた高岩は二つの岩峰が屹立していた。いま立っているのは右側の雄岳。ここが最高地点になる。次は左の雌岳へ向かう。
まずは先ほどのチムニーを降りなければならない。登るより下る方が難しくて怖いものだが、なんとなくコツを掴んだのか一度登って気持ちに余裕ができたからか、スムーズに降りることができた。とはいえ調子に乗るとやらかしかねない。セルフビレイを取りながら慎重に降りた。
コルから雌岳へ向かう。
感覚が麻痺してるのでなんともないが。まあまあスリリングなとこ歩いてるよな。
その後もロープ頼りの急斜面などもあったが、あのチムニーと比較するとなんてこともない。縦走して西側へ下山した。
特別危険なのは30mチムニーだけとはいえ、あれは登れない人もいるだろう。
高岩は、猿岩、小ギャップと並ぶ、三大恐怖のクサリ場となった。