静かな尾根と賑やかな縦走路 – 万六ノ頭 / 連行峰 / 茱萸ノ木山

数馬行きの始発バスを柏木野で降りた。乗客のいなくなったバスはゆっくりと走り去っていき、ぼくは無人のバス停で準備を整えた。

集落はまだ朝の眠りから覚めていない。ひと気のない歩道を数メートル進むと、登山道を示す道標があった。それは民家の入口のようにしか見えなくて、道標がなければ、ここへは入らないだろう。

民家の脇の階段を静かに下っていき、川を渡ると山道に入った。山の陰になってまだ日の差さない杉の植林地帯を登っていく。

標高を上げて落葉樹林に入り、ようやく太陽の光が届くようになった。登山道をそれて万六ノ頭に寄っていく。

静かだ。こんなところに登ってくる登山者はほとんどいない。今日もまだ誰にも会っていない。登山者の多い奥多摩でも、登山者が多い場所というのは極めて限定的である。

陽射しが柔らかく、ここでゆっくりしていきたかったが、まだ2時間も歩いていない。先へ進むことにしよう。

地味な尾根を登って連行峰に到着した。ここで、高尾山から陣馬山、生藤山、三頭山を経て奥多摩湖へ至るメイン縦走路に出会う。

連行峰で休憩していたわずかの時間でも数人の登山者が通過していった。マイナー尾根とは違って、歩く人もそれなりにいる。富士山のよく見えるポイントでは、カメラを構えてる人たちもいた。

縦走路を醍醐丸まで歩き、吊尾根に入った。

ここからは再び静かな山歩きかなと思ったが、戸倉三山へ抜ける道なので、いくらかは歩いてる人もいた。市道山や臼杵山では、大休止する登山者にも会った。

しかし、臼杵山からグミ尾根に入ると、山の雰囲気が変わった。鬱蒼とした樹林帯には人の気配がしない。賑やかな山も悪くはないが、誰にも会わないこんな尾根は気持ちが落ち着く。

グミ御前を探して踏跡のない急斜面に取り付いたり、茱萸ノ木山の山頂を探したりと自由な時間を満喫して、十里木に下山した。

2020年12月