山を感じる山歩き – 巳ノ戸尾根 / 鷹ノ巣尾根 / 稲村岩尾根
いわゆる登山道としての整備された道はありません。あるのは自然にできた踏み跡だけ。それも薄く、しばしば消えてしまいます。先人の歩いた軌跡が見えないところは、じっと地形を見つめていると浮かび上がってくるラインに沿って歩きます。
尾根に乗っかって歩くだけなので、迷うこともありません。本能に備わる方向感覚と地形風景の記憶力だけで進みます。いちおう念のために地形図とコンパスはあります。最新装備のGPS(スマホだけど)もあります。これがあれば山で迷うこともないでしょう、というか迷うのは不可能だと思います。
なだらかな部分にはなんとなく残っている踏み跡も、急斜面では全く消えてしまっていて、立木をつかんでひたすら強引に直登します。
いいねいいね。こういうのが山だよ。
低山のバリルートってのが、自分の「山」を最も感じられる場所。まあ、高山の稜線のほうが好きですけどね。
八丁山の手前で尾根が細くなり岩がちになると、急に視界が開け、イケメンな鷹ノ巣山の姿が目に飛び込んできました。そして、背後には新緑の長沢背稜。
八丁山で左へ折れてからは、痩せ尾根に繁る木々の間から、雲取山や石尾根がチラチラと。鷹ノ巣山の山頂直下には、少しくびれた場所がはっきり見えます。あそこがヒルメシクイノタワだな。あそこを目指して、あるようでない道を進みます。
根っこをつかんで最後の急登をよじ登ると、ヒルメシクイノタワで休憩していたみなさんの背後にひょっこり飛び出しました。人が来るとは思ってもいなかった背後の急斜面から突然現れたので、ひどく驚かせてしまいました。こちらも、こんなにたくさんの人がヒルメシクイノタワにいるとは思ってなかったので驚きました。
どこから登ってきたのか等々の会話を少しかわしたあと、いちおう鷹ノ巣山の山頂も踏みにいきます。
山頂でもたくさんの人が腰を降ろしていました。鷹ノ巣山ってこんなにメジャーな山だったっけ?
帰り道は稲村岩尾根を一気に下ります。
バリルートの後では、一般道は高速道路です。めちゃめちゃ歩きやすい。一気にダダダダッと降りていきます。下からはまだまだたくさんの人が稲村岩尾根を登ってきます。登山者風ではない人も多く、息の上がった何人もの人に、あとどれくらいですか?って尋ねられました。鷹ノ巣山ってそんなに一般的な山だったっけ?
帰り道、稲村岩にも寄り、てっぺんの祠を見て、日原の集落を見下ろしてから下山しました。
で、今回どこの山へ行ってきたかと言えば、やっぱり鷹ノ巣山となるのでしょうけど、この、どこどこ山へ行ってきたとか、どこどこ岳に登りたいとかいう言い方には居心地の悪さを感じます。そこには山を山頂という点で捉える視点しかありません。
でも登山ってのは、どこから入りどこへ登ってどこに抜けるのか、その全てです。どこを通れば最も山を感じられるのか、全てを自ら考え選び歩くのが登山のおもしろさだと思います。
どこから登ると楽に登れるかが山頂へ至るルートの選択基準だなんて、悲しい山登りですよね。
登山は線だ、点じゃない。