赤い月

赤い月には不吉な想いがある。それは幼いころに見た赤い月のせいだ。

遊び過ぎて暗くなってしまい夜道をひとりで帰る道すがら、なんだか気配を感じて振り向くと、そこには大きく丸い月がいた。

地平線近くの月はいつもより大きく、そして異様に赤かった。怖くなり、前を向いて急ぎ足で歩いた。しかし背後が気になる。恐る恐る振り向くと、先ほどより大きくなった血の色をした赤い月がいた。

追いかけられてる!追いつかれるぞ!

そこからは一目散に走った。気になるが、もう振り向かない。いまにも月がすぐ後ろに迫っているような気がする。飲み込まれそうだ。とにかく走った。

大人になったいまは、月が赤くなるのも大きく見える理由も知っている。

そうか? ほんとに知っているのか?

その理由は、自分で発見したわけではない。事実かどうか確かめてもいない。確かめる方法も知らない。ただ、そう言われているから、そう信じているに過ぎない。

科学というのはなんだろう。

なぜだかそれが真実だと信じているが、そもそも科学は宇宙を解読しているわけではない。ある程度の近似値で森羅万象を説明してはいるが、どこまで追求しても完全な解答にはたどり着かない。ただ、なんとなく、みなそれが真実であると思っているだけだ。

考えれば考えるほど、科学と宗教の境目が曖昧になってくる。

月が地球の影に入って…と信じているのは、夜の神が流した血で赤く染まった…と信じているのと変わりはないのかもしれない。少なくとも、その二つの違いを証明する術を、ぼくは持たない。

現代社会で最も強力に最も広範囲で信仰されているのは、科学という名の新興宗教なのかもしれない。

次回の皆既月食は、2022年11月8日18時8分から始まる。

 

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Posted by azuwasa