桑酒
富田酒造と山路酒造という二軒の造り酒屋が木之本にはある。どちらも室町時代後期の創業で、現存する蔵元では全国で五番目と四番目に古い。この二軒のうち、今回は山路酒造を訪ねた。
山路酒造ではなんといっても桑酒だ。桑の葉を焼酎に漬けて抽出したエッセンスと伝統製法のみりんを合わせて寝かせた和のリキュールで、創業当時からの看板商品だ。かの島崎藤村も桑酒を愛し、自宅に取り寄せて愛飲していたという。山路酒造には藤村直筆の注文書が残っている。
かつては桑酒を造る酒蔵が国内に数軒あったというが、いまでも製造販売しているのは山路酒造だけである。つまりはここでしか手に入れることができない酒なのだ。
琥珀色の液体はとろりと甘く、口に含むと爽やかな青葉の香りが鼻腔に広がる。甘い酒なので食事には合わないけど、食前酒としてはとても良い。
山路酒造の女将さんは、ロックやソーダ割り、レモンやミントを加えたモヒートなども勧めてくれたが、昔ながらの常温ストレートが桑酒の良さを最も堪能できるだろう。私は常温で飲むのが一番好きだ。
ミニボトルから大中小の徳利入り、四合瓶や五合瓶に一升瓶と多種多様なサイズが用意されている。どうせなら大きいほうがいいなと一升瓶を買い求めた。
開栓後も冷蔵不要で一年や二年放置しても劣化しないと女将さんはおっしゃっていたが、毎晩ついつい飲み過ぎてしまい、あっというまに無くなりそうだ。
2025年2月